お花の先生が一念発起して
隠れ家レストラン&ギャラリーを。
桜で有名な山崎川の上流、閑静な屋敷街に彼女は住んでいる。昔は爺さん、婆さんとの同居で家族の面倒を見ながら、お花の先生に生きがいを求めていた。華道、茶道をたしなむうちに器の魅力に惹かれ、ご主人に相談したのが11年前のことである。
「自宅を改築してギャラリーにしたい」。
昭和初期に建てられた、由緒ある商家の別邸の趣を持つ日本家屋である。ご主人の快諾を受けて3,000万円を注ぎ込み、古い民家のイメージを残したままに、落ち着いたたたずまいの粋なギャラリーが完成した。まわりは住宅街で、来訪者の食事やお茶の世話ができないので、レストランも併設することにした。いわゆる隠れ家レストランのハシリである。
目的を持って働く女性は歳より若く見える。彼女も同じように輝いている。初対面から三度目。今回はちょっと疲れている様子だが、現在開催されている藪本栄さんの「天真爛漫陶童展」の奔放な童子とダブらせてみた。こんな夢を見続けたいものである。彼女の夢の話は尽きないが、レストラン&バーは若いスタッフに任せて、ギャラリーに専念したいようである。陶芸、工芸の若い作家に発表の場を提供して、愛好家との仲を取り持ち、一緒に焼き物の芸心を忌憚無く語り合いたい。
私は二度、食事をしたことがある。最初は楽創会の作品発表の時。土曜日の午後、ランチをとりながらガラス工芸家の李さんや、知人の権内さん、林さんたちと楽しいひとときを過ごした。もう一回は結婚記念日に家族で訪れた。バーカウンター前の特等席を用意してくれた。食前酒の白ワインは、他の店ならドイツライン川添いのワインケラーを想い起こす値打ちなリースリングを注文するが、オーナーの推薦する初耳のボトルを頂くことにした。名前は忘れてしまったが、甘酸っぱい香りと気品を感じる素直な喉越しがいい。吟味されたコース料理は一流のシェフに負けないぞ、とでも言いたいような意地を感じた。何よりも感動したのは器である。魯山人の「器は食するためにある」という言葉を地でいっている。オードブルからデザートまで、いや灰皿に至るまで、食の雰囲気を優雅に盛り上げる陶芸のテーブルコーディネイトが粋である。他人を気にしない、ゆったりとした空間のレイアウト。スポットの光が焼き物を浮かび上がらせている。贅沢なギャラリーの作品に囲まれながら、家族の歓談が続いた。
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