今回は取材しづらい。と言うのも開口一番、彼女の前歴はリクルートで、取材編集の仕事に携わっていたとのこと。どちらかと言えば私は道楽のようなもの。彼女はプロだったのである。
伊藤美香さんは閑静な山崎川に近いマンションに住んでいる。玄関に入ると猫ちゃんのお出迎え。通されたリビングではもう一匹の猫ちゃんが尻尾を立てて警戒している。家族はドクターのご主人と6才の女の子の三人家族、否、猫ちゃんも人並みに扱われているから五人家族である。彼女は主婦業をつとめながらのソプラノ歌手。普通なら音大を出て、ドイツかオーストリアの留学経験のお話が出るところだが、彼女の経歴はそれとは異なる。学生時代の部活が始まりで、卒業後に入った合唱団でご主人との接点ができた。ある時、サンフランシスコオペラの名古屋公演があり、ラボエームのバックコーラスの話が舞い込んできた。パトリック・サマーズが指揮するプッチーニのイタリアオペラである。ご主人と一緒に、この仕事をしたことがきっかけでゴールインし、研究医としてテキサス大に渡米するご主人につき合って、音楽への道が開けた。
プレゼンテーションスタイルの実践コンサートを学ぶ
近くの大学で声楽を学ぼうと、師事した教授がパットン先生。「やる気があるなら教えましょう」という言葉でその気になる。厳しいレッスンだが、日本やヨーロッパとは異なり、実践を積ませることに重点を置いている。パットン先生の口癖。「人が喜んでくれるのが、プロの仕事。舞台は一度しかない。だから一度しか聴かない。」チャンスは一度しかないと言うことだろう。
実践とは、自分で企画してコンサートを開くことである。彼女はプレゼンテーションまでひとりでこなさなければならない。だから舞台で歌うだけではない。プログラムの組立や内容の説明も、会場の観客に向かって語りかけなければならない。会場は大学の視聴覚教室であったり、クリスマスチャーチ、バレンタインコンサート、街のコミュニティコーラス等々。いいコンサートであれば、また来てくれる。悪ければ二度と来てくれない。そんな実践的コンサートを年20回、トータルで40回も開いたという。
ステージと客席のコミュニケーションで
クラシックを身近なものに。
日本に帰ってからは、コンサートグループ「花の詩」に加わって音楽活動を続けている。100人近くの音楽家が在籍していて、サマーコンサートやファミリーコンサートを開催している。今はその中の有志で結成したアンサンブル「花束(ブーケ)」の出張演奏に、忙しい毎日を送っているようだ。
「バイオリンの弦は、どの動物のシッポから作られてるのかな?」
客席の子供に笑顔で問いかける。子供からはいろんな応えが返ってくる。観客と対話しながらコミュニケーションを図り、親しみやすいクラシックの調べで感受性豊かな心を養ってくれればと、保育園、幼稚園、学校、病院、各種施設を巡回している。演奏の謝礼は、乳幼児童・高齢者・病気の方対象の場合は先方任せなので、楽譜代、企画や合わせの時間、交通費等を考えると赤字の場合もあるとか。それでもクラシック音楽に親しんでもらうために、今以上の活動を続けたいという。
地域活動のほんとうの姿を見たようである。拍手したい。
彼女はオペラをやりたい、と最後に言った。
予算を持つ自治体、商店街、教育機関などのフォローがあれば、やれそうな気がする。これを読んだ人で、お力になれる人はご連絡頂ければ幸いです。
|