円頓寺商店街を南の狭い路地に入ると、昔ながらの古い長屋が並ぶ下町の風情。軒先の風鈴と縁台があれば、半世紀はタイムスリップしそうな時代錯誤に陥るだろう。そんな一角の奥の細道、階段を登ると、冨田さんのアトリエがある。古い外面とは一変した内装に驚かされるが、心憎い感性を持ち合わせているようで、今日の取材が楽しみである。マッキントッシュのコンピュータの回りには、資料が山積みにされている。
彼女はガーデンデザイナーである。女らしい繊細な一面とエネルギッシュな情熱が伝わってくる不思議な空気感を漂わせている。施工現場から帰ったばかりと見え、額に汗がにじんでいる。早速、質問に入る。庭とは?の質問に、「癒しの心」と応える。「シンプル イズ モダン」が信条で、設計コンセプトの柱になっている。この考え方は日本庭園に通じるものであり、心のゆとり、精神的な安らぎをもたらすスペースの創造である。
施主さんとお話ししながらプランを描く。
お客さんとの打ち合わせには充分すぎるほど時間を割く。信頼関係ができないと話は進まないので、施主さんの好みや予算を聞きながら、時にはよそ道に逸れることもあるが、話の中からコスト内でベストなガーデンを頭の中にデザインしていく。そんなコミュニケーションが信頼関係を確実にする。建築設計と異なることは、規格モノがないことである。植栽にしても、庭石にしても、サイズの決まった立方体ではない。だから完成するまでは全て立ち会わなければならない。設計、搬入、施工に至る全てのプロセスに、デザイナーといわれる職域を越えて、現場監督も職務に入る。現物を見ながらバランスを考え、配置も変える。彼女が庭石を担ぐ姿を連想して、思わず吹きだしそうになる。決して華奢とは言えないが。
受注物件は50万円〜2,000万円を超えるものまでいろいろある。見せてくれた主婦と生活社の「ステキなガーデンデザイン」雑誌に、彼女の記事が掲載されている。この購読者からの引き合いや受注も多い。設計事務所、建築会社とのコラボもあるという。いずれにしても、彼女のバイタリティ溢れる行動力が顧客を増やし、ますます多忙な毎日が続いていくことだろう。
彼女のご主人は、名古屋の伝統楽器、大正琴を作っている。二人の共通の趣味はドライブである。クルマはマニアックな外車ファン。ご主人は87年式ポルシェカレラ。彼女はアルファロメオ。高原ドライブがお好きなようで、蓼科のビーナスラインを、シフトノブをせわしなく切り替え、重いハンドリングを楽しんでいるという。人生のオンオフを、しっかり切り替えられる女性は案外少ない。彼女はその中のひとりであるようだ。
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