知らないうちに女心を傷つけている日本語がある。時代錯誤もはなはだしいが、私の問いかけの言葉に、「ご主人は・・」と「奥様」にたずねることがある。今は男女同権の時代であるのに「主」や「奥」は禁句と言える。このことを白樺さんから教えられた。古き日本人がまたひとつ脱皮して、賢くなった思いである。ついでに「家内」という私の常用語も葬り去らなければ。
残暑厳しい真昼の訪問先は守山に住む女優、白樺さんの稽古場。金城学院大学の東にあり、緑に包まれた閑静な住宅街の一角にある。通された仕事場にエアコンはない。天窓とサンルームのアトリエは採光バツグンだが、温室効果で途端にシャツが汗ばんでくる。小さな扇風機が頼りなくまわっている。ライトアップされる舞台を考えれば、暑さに強くなければならない。彼女が女優であることを再認識できた。
ミュージカル「ファンタスティックス」で主演デビュー。
子供の頃から憧れていた歌手への道を、「芸人の道は厳しい」との母親のひと言で半端あきらめていたが、大学卒業時にムクムクと甦り、結局は俳優養成所の門を叩いた。一年の演劇特訓に明け暮れているある日、ミュージカル、ファンタスティックスのオーディションの案内が舞い込んだ。意を決して会場へ行くと、ルイザ役に150人が応募している。5人の選考枠に選ばれ、練習の結果、ダブルキャストの一人に選ばれた。幸運か実力か、どちらにしても主演デビューは劇的にスゴイことである。
その後の彼女は結婚、出産、子育てと、短い専業主婦の時代を過ごした。子育ての最中にも、舞台でのびのびと歌を唄っている自分を夢見続けている彼女に、第二幕のチャンスが訪れた。名古屋市が主催するサウンドオブミュージック、名古屋公演のマリア役オーディション通知。子供が小さいので悩んだが、進みたい道はブレーキが利かない。オーディションの結果は50人中のひとり、白樺八青に白羽の矢が立った。まさしく強運の持ち主。いや、これもまた実力か。昼は子育てがあるので、練習は夜になる。毎晩自転車で芸創センターまで通った。そんなある晩、NHKの村上信夫アナの訪問を受ける。「NHKテレビ、育児カレンダーの母さんキャスターを捜しています」。縁とは不思議なもので大切にすべきものである。この仕事が2年続き、その後はラジオFMの「夕べのひととき」でパーソナリティもこなした。自身の主催によるファーストコンサートで歌手デビューも果たした。しかし人生、山もあれば谷もある。仕事と家庭を両立させる難しさが、パートナーとの別居、離婚と、家庭での第一幕に終止符を打たざるをえなかった。波乱の青春時代である。
話はとめどなく続くが、彼女のバイタリティあふれる履歴をすべて綴ることはできない。
時は流れ、今は再婚ホヤホヤの「やおさん」である。パートナーは演劇仲間の「かやさん」。子供も含めて4人家族は「さん」呼びで通している。明るく理解ある家族に包まれて、彼女は相変わらず歌と演劇に余念がない。トークと歌のコンサートを通じて、地域の人々と交流を図っている。音楽家集団コスモアルテの代表は多忙な毎日を送っているが、彼女の最後の言葉で締めくくりたい。
「子供がいるから、年だから、と言って何もしないより、思い立ったら一歩を踏み出す」
「男性より女性のほうが、考え方によっては自由です」。
行動的な今の若い女性を、ハラハラしながら注意しているお母さん。逆にお母さんたちの引っ込み思案を改めて、行動的な子供を見習うべきかも・・・。
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