訪れたとき、彼女は工房で名古屋マリオットホテルの注文グラスを作っていた。「ちょっと、撮らせてね」の私の言葉が耳に入ったかどうかは分からないが、勝手にしゃがみ込んでシャッターを切る。愛想がない。表情がない。どちらかと言えば、取り憑かれたように熱中している。額や頬に汗がにじみ、髪も乱れている。私の手で髪を直そうものならド叱られかねない。もっけの幸いと自然な姿をカメラに収めた。工房は40〜50度の世界である。
工房の主、李さんと展示室で話をしていたら、仕事を終えた彼女、空西あかねさんが入ってきた。飾らない格好から、今度は25才の笑顔がまぶしくひかる。私の前にチョコンと坐った。あかねさんは焼き物で有名な四国は愛媛の砥部町生まれである。短大でグラフィックデザインを専攻したが、造形への憧れが強く、透けるカタチの魅力に惹かれて能登半島、能登島のガラス工房で半年コースの研修を終えた後、ここバルト工房に落ち着いた。すでに5年を迎える。
夢は故郷で工房を開く。
好きこそモノの上手なれ。好きなことで飯が食えれば最高の人生と言えよう。しかし、芸術の道は狭き門であり、その道で成功する人は少ない。孤高を求める道は孤独で厳しく、幾つものハードルを越える精神的なエネルギーが伴わなければならない。自分の感性を作品に封じ込める前に、彼女はまだ、職人的な作る技を修行中であるという。5年かけても、溶けたガラスを分、秒の時間と戦いながらカタチにすることは、大変なことのようである。自分の思いのままに創ることは至難の技であろう。その上にガラス独特の透明感と色彩という要素が加味される。芸術への道程は気が遠くなるほどに感じるが、若い人たちの熱中する姿を見ると、「フレー、フレー」と応援したくなる。
今は人の顔をモチーフにした様々な表現に挑戦している。そんな彼女が、工房仲間と初めての2人展を開いている。「ふたりのかたち・ガラス展」である。
コップ、一輪差しなど身近な道具に感性を吹き込んで、強く印象に残る創作を心掛けている。考えること、やりたいことが、頭の中でぐるぐる回っているらしい。そんな夢がカタチになって、私たちの目を楽しませてくれる日を楽しみに待とう。夢の四国は遠いけれど、空西あかねさんの名前が聞こえて来ることを願っています。
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