「寺さん」の愛称で通っている旅づくりの名人は、ごらんのように、笑うとまったく目がなくなる。この笑顔を見るだけで、高貴な素性が「ウン、ウン」とうなずけるし、即、信用につながっている。正式には(有)旅工房の代表取締役、寺西正さんである。
私もまた、彼の大ファンであり、旅を計画するときは必ず彼を引っぱり出す。当然のことながら、彼を同行させないと、旅の面白さは倍増できない。彼の出演料はチョット高いかも知れないが、それ以上の価値は保証できる。あるバスツアーでの彼のトークを紹介すると、「食事前には話しませんが、有ると怖いものベストワンは、透明のバキュームカー」とか「目の前に出されたら食べるかも知れませんが、有ると怖いものベストツーは、無毛症の毛ガニ」。等など、次から次ぎに繰り出されるジョークに爆笑の渦となる。
お客様本位の手づくりの旅を提供したい。
海外旅行で人気の高いロマンチック街道なら、誰もがノイシュバンシュタイン城に寄ることでしょうが、歩くと登りがキツイので、往路は馬車を利用し、復路は下り坂になるので歩いて散策を楽しんでいただく。こんなちょっとした気遣いが、お客様への本来のサービスでしょう。日本人には気軽なハワイでも、プレスリーが好んだハナウマベイのトイレットポイントを案内するガイドは少ない。打ち寄せる波が引くときに、吸い込まれるスリルを体験させたい。感動を与えたい。彼の頭の中には、40年近い旅の経験がぎっしり詰まっているようだ。
JTBなど大手旅行会社のパックツアーも取り扱っているが、彼自身が体験した膨大な旅情報から、お客様の好みに合わせてチョイスしたオリジナルを試してみたい。食通にすすめたい伊勢の旅なら、アワビ、伊勢エビなど海の幸の「海女桶盛り」が喜ばれているという。バリアフリーの旅にも熱心で、南鳥羽にある五感の湯・慶泉では、車イスのまま温泉に浸かることができるという。
旅のスペシャリスト寺西さんは、大学卒業と同時に名古屋鉄道に入社した。配属先に広報宣伝か観光を希望したら、グループの名鉄観光へ出向する辞令が下りた。それ以来旅行業界にどっぷり漬かり、お客さんからは「寺西指名」の旅が増え続け、アッと言う間の20数年が過ぎた。その後、名古屋鉄道に戻って二見の夫婦岩パラダイスの所長、営業部長を勤めたが、50才を機に独立し、現在の(有)旅工房を経営している。お客様に「手づくりの旅」を提供するかたわら、いろんな団体の依頼で、旅をテーマにした講演活動も行っている。学校に籍をおいて、非常勤ながら講師役も勤めるなど多忙な毎日に明け暮れる現在だが、旅への探求心は強く、新たな旅先開発に余念がない。どんな旅でお客様に喜んでいただくか、百人百様の旅メニューに意欲的に取り組んでいる。
彼が今、悩んでいる日本語を紹介して、取材記事を終えます。
悪いことをやり始めたときに、「○○に手を染める」という。
そういうことを止めるときに、「○○から足を洗う」という。
なぜ、「手を洗う」と言わないのだろう? おそらく彼は、一生こんなことで悩み続けるのではないだろうか。
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