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041104 |
作陶の心意気を感じる人柄
快活な夫人のお出迎えとは逆に、工房で仕事中の陶芸家は厳格な職人気質で近寄りがたい雰囲気を持っている。私の第一印象を悟られないよう、気楽に話しかけてみた。何と言うことはない。いたって気さくに私の話に乗ってくれた。
ここは瀬戸の中心から北に入った品野の近く。瀬戸焼、美濃焼の作家が数多く工房を構えている。波多野正典さんもその中の一人で、中堅の陶芸家としてエネルギッシュに活躍している。実は近くに住むガラス工芸家、李末竜さんの紹介で、夫人がホームページに興味を示しているとのことだったので、お訪ねして「あの街この人」の取材もチャッカリ頼んでみることにした。バブル崩壊以来、芸術の道は厳しく、絵画から工芸に至る作品の価格破壊と売れ行き不振が続いている。瀬戸陶芸協会の理事を務めているので、業界情報にも精通していて教わることも多かった。
工房の作品を一通り観賞して、頑固な芸術魂と職人気質の両方を垣間見ることができた。ひとつは正典ブランドであり、もうひとつは家庭で気軽に愛される器というやきもの。言い変えれば芸術品と商品である。このふたつの仕切り分けが明確であり、その戦略が彼の地位を築いていることが理解できる。
瀬戸に正典焼のブランディングあり
人気の織部焼がインターネットで安売りされている。その価格に合わせて量産され、デフレのスパイラルから逃げようがなくなる現状。単に食器として日課の中で使われる器とは一線を画したい。私の場合、やきものには2種類の趣向がある。装飾品として住まいを飾るものと、毎日の食卓で料理にコーディネイトされて使われるもの。魯山人の求めるところとはレベルが違うが、愛用している美濃焼茶碗で食べるご飯はまことに美味しい。
食文化の中で、こだわりを持つファンが増えれば、陶芸家の道も明るくなる。価格破壊とは無関係なマーケットを創造し、家庭の中に食にこだわるやきもの文化を築いていくべきだろう。若い家族層にやきものファンを作る。そのための戦略は業界を越えたブレーン作戦かも知れない。テーブルコーディネイターや調理人とのジョイントも考えられる。ギャラリーにおける個展のやり方にも変化が必要になってきたようである。正典ブランドが飛躍するためにも、芸術は創るだけでなく、セールスプロモーションのあり方も考えなければ、業界の隆盛は遠い道になりそうだ。
うれしいことに、波多野正典さんには夢がある。22歳で森脇文直さんに師事したときからの夢は、海外で正典ブランドの個展を開くこと。瀬戸の落合町に波多野正典あり、と言われたい。彼の陶芸活動は旺盛で、これまでに7人の弟子を育て、それぞれに公募展入賞を果たさせている。当人たちの努力もさることながら、作陶に情熱を傾けることのできる環境とチャンスを与える彼の姿勢が素晴らしい。
正典ブランドの魅力を求めてギャラリーを訪ねる人が多い。現在では熱心なファンのために、多忙な時間を割いて陶芸教室を開いている。土へのひたむきな心に打たれました。
陶芸教室については、直接電話で連絡して下さい。
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