もう秋だというのに、
みずみずしい緑がいっぱい溢れている。
春のたたずまいと見間違えるほど、
沢も山も輝いていた。
お盆以来の山歩きである。アカホリさんからの情報で、突然決めた。天気もそこそこ、雨までは降りそうにもないので、マップを調べて出発となった。ドライブイン金山を過ぎて、信号を左折し金山湖へ向かう。金山の森へは思ったより時間を要した。キャンプ場を左に見て川沿いに進むと、やがて簗谷山登山口の案内標識がある。左折して川を渡り、簗谷林道を終点まで車で入った。先客は車一台だけで、登り口に座り込んでいる若い女性グループに挨拶すると、気軽に話しかけてきた。
「どっちのコースが楽かしら」
私も初めてなので、ガイドブックの通り説明して、ブナの木コースを勧めた。車の運転が不安だったのか、林道入口に駐車して一時間も歩いてきたそうである。「もし、帰りもここで会えたら、下まで載せていきましょう」
ブナの木コースと言っても、ブナの木が林立している訳でもなく、明るい落葉樹の雑木林である。沢筋の道は歩きやすく、せせらぎの音が心地いい。存分に森林浴を体感しながら、ゆるやかに登って行く。木々にぶら下がった表札には、ナツツバキ、サワラ、カエデ、ケヤキ、マルバアオダモ等々。知らない名前も実に多い。沢から離れてツヅラ折れの山道をひとこぎすると尾根筋に出る。明るくなった雲の合間からのぞくお日様は柔らかく、木漏れ日となってあたりの緑をみずみずしく彩ってくれる。雷の直撃を受けたブナの大木を過ぎてほどなく、東北側が開けたブナの木平に着いた。わずかな微風が、立ち休みの身体をいたわってくれる。ミヤマガマズミと書かれた木が赤い実をつけている。その葉ずえ越しに雲に覆われた御岳の裾野が見える。山頂の展望は期待薄である。
穏やかな尾根の道は林間を縫っている。時々現れるブナの古木はトトロの世界を連想させてくれる。突然、妻の絶叫。「キャーッ、蛇」。私が振り返る頃には姿がない。「キャーッ、トカゲ」。またまた振り返るが、何も見えない。妻の爬虫類嫌いには感心する。タイの蛇寺へでも連れて行ったら、どんな事態になるか興味津々。そうこうしているうちに南尾根道の道標を見て、右に上がったら山頂に出た。
方位盤の後に立って、書かれた山々の方角を追っても、ことごとく雲に遮られている。なぜか乗鞍だけがチョコンと頭を出している。先客の可児から来た人と話をしているうちに、中年の三人組に続いて前述の女性グループが到着した。途端に狭い山頂がにぎやかになった。妻と二人、のんびりとビールを飲み、タバコをくゆらせ、お湯を沸かしてラーメンを食べる。頂のしあわせタイムを堪能しているうちに、可児の男性が姿を消し、続いて女性グループも華やかな声をあとに下っていった。
山頂以外はすべて森の中である。南尾根道を下ると間もなく、岳見岩の道標が左を指していたが、展望が期待できないのでそのままパスして下った。途中、大山祇神の碑があり、かつては身を清める修行の場だったそうだが、名前の小滝では修行の役には立ちそうもない。チョロチョロ流れる水を飲んでみたが、おいしいとは思えない。ミネラルはフンダンかも知れないが、名前の通り、小鹿の涙滝。どのようにして身を清めたか、納得できない。
この山域には花が少ない。麓の沢筋には咲いていたが、登山ルートにはほとんど咲いていない。しかし、森林浴にはふさわしいリフレッシュできる山歩きが楽しめる。
戻って来た駐車場に、女性グループが待っていた。疲れを訴える二人を載せて林道入口に到着後、沢筋の花を撮影していると、元気組が到着。リーダーらしき魅力ある女性が、
「私たちのキャンプ場へおいで下さい」
私ひとりだったら、喜んでついて行ったことでしょう。
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