はじめに。
参加された皆さんにおわびします。花の藤原岳をイメージして参加された人にとっては、後半の沢下りがかけ離れた山歩きを強いられたこと。フクジュソウの楽園があるとは言え、坂本谷(水谷さんとの会話で低山徘徊禁句条項)を下ったことは私のミスです。昨年登った経験値が生きない変貌ぶりから、直前の偵察が必要な谷であったこと。坂本谷は現在も崩落が続いているので、当分は近づかないようにしましょう。
聖宝寺の登山口を登り始めたのが7時過ぎ。別動の水谷隊、まむさん隊はルート中のいずこかで落ち合う手配になっていたので問題はなかったが、聖宝寺集合予定の飯塚さんが来ない。携帯も通じないので見切り発車することにした。天気はいいし暖かい登山日和である。藤原岳への最短ルートを選択したが、杉の植林帯に作られた道は変化に乏しく、勾配もきつくなる。この山域に群生するネコノメソウが黄に色づいてはいるが、他に目を楽しませてくれるものはない。坦々と登っていく。丸山さん夫婦をトップに、内田さん、つむぎさんと続き、私がしんがりを歩く。
一時間も歩いた頃に声をかける。「見晴らしのいい場所を見つけて小休止をとりましょう」。さして見晴らしはきかないが、日当たりのいい麓が見える場所で一服することになった。ふたたび歩き始めて程なく、右手に黄色い存在がちらほら。早速、撮影モードに切り替わる。日射しが弱いせいか、まだ元気がない。本来の金色の輝きにはイマイチ。そうこうしていたら飯塚さんが追いついた。携帯電話もカメラも忘れたとのこと。6人のパーティーでふたたび歩き始める。暗い林の中に小さなセツブンソウが咲いているが、これまた寝坊助で対象外。沢筋に残雪が現れ始める。山道も凍てついているので、スリップ注意を促す。
内田さんご存知で、さるぼぼさんの仲間であるC−NAさんから声がかかる。山頂でまたお会いしましょうと、先を急ぐ。八合目近くに来て、聞き慣れた大きな声が後から響いてきた。水谷さんが追いついてきた。8時に聖宝寺を発って、ここで追いつけるとは、さすがのパワーである。もぐさんの元気な顔も間もなく現れた。一服とも思ったが、休むなら眺望が利く、花に囲まれた場所がいいと言うことで、そのまま進む。山道が雪道になる。滑りやすい。
梢越しに伊吹山が見えてきた。その右には能郷白山、白山連峰が、今日の青い空に白い山並みを浮かべている。岩が露出したフクジュソウの咲く明るい場所で休憩をとる。それぞれが、個性豊かな格好で花に対峙してカメラを構える。後が楽しみ。フクジュソウグループ展でも、ネット上でやらかすか。
土まじり、雪まじりで滑りやすい山道が続く。丸山さんの奥さんが不安そうなので、アイゼンの装着をすすめる。私はタバコをくゆらせて待つ。樹林帯を抜けて、明るいヤブ越しに藤原岳の稜線が見えるようになると、避難小屋は近い。ルートから右に逸れて直登すると、人の声が聞こえ、フクジュソウ、避難小屋、藤原岳が一幅の絵となって眼前に広がっている。まだ空いている避難小屋に入って昼食タイムとする。
シャブリと間違えて買ったブルゴーニュの白ワインが食前酒、日本酒を熱燗にして飲みながら握り飯とカップうどん、もぐさんの焼酎がデザートワインで、内田さんのオレンジでフルコースフィニッシュ。待ち合わせるはずのまむさん一行はまだ来ない。とりあえずは藤原岳展望丘まで往復することにした。雪解けの泥道は始末に悪いが、片道20分、往復40分。混雑する山頂で記念写真を撮って直ぐに戻ったが、まむさんの姿はない。今日の行程はまだまだ先が長いので、会えないことは残念であるが出発することにした。
開放的な尾根筋を歩くようになる。カルスト台地を雪がまとい、春の日射しで木々の根元や岩の周りに地肌が覗く。すでに所々で緑が芽吹き、黄金色もあちこちで笑顔を振りまいているが、雪の中から顔を出しているものは、さすがになかった。美人を選んで写真を撮り、声をかけたもぐさん、内田さんを藤原岳バックにツーショット。画像加工した個所がふたつあります。さて、どこでしよう。
途中、天狗岩に寄り、稜線上の鉄塔下で小休止後、白船峠まで下る。ここまでは予定したコースタイムが守られた。まさかこの後で予定時間の倍以上を費やすとは・・・。
山腹のトラバース、激下りは、雪があると危険度も数倍上がる。下りは踵に全体重を載せて踏み込み、ステップを確保するか、硬ければ足裏全体で摩擦係数を上げてスリップ防止に努める。限界を感じたら即アイゼンを装着する。無理は禁物である。それぞれの技量でそれぞれの装備。私はしんがりをいいことに、ショートカットの尻セードを採用。しんがり組の経験豊富な水さん、もぐさんもグリセードまがいで仲間入り。そうこうしている内にルートから逸れ、支沢に入り込み、楽するつもりが、トラバースに登り返し。
合流して程なく、フクジュソウの楽園に入る。広範囲に渡って乱れ咲いている。マツトウダイ、セツブンソウも多い。コバイケイソウも土の中から新芽を覗かせている。左岸沿いに楽園を下るが、ルートの踏み後はしっかりしていない。足元も不安定で崩れやすい。
追い越していったパーティーのリーダーらしき人の大声が聞こえてくる。落石の注意を訴えている。沢への降り場所を間違えているようだ。トップを行く水さんの問いかけに、他のルートを偵察に行く。しっかりした岩づたいに沢床に降りると、赤ペンキのルート指示を見つけた。こちらが正規のルートで、はるかに安全である。水さん、もぐさんに伝え、先行の別パーティにも、戻るよう指示を与える。落石が絶え間なく谷に響く。落石事故を防ぐために、水さんが間隔をおいて一人ひとり下るよう指示している。中間点でもぐさんが安全な場所へ誘導している。うん、これなら大丈夫。百人力である。ここから200mほどの落石危険地帯は間隔をおいて下り、続いて岩雪崩の起きそうな不気味な支沢を通過し、さらに下る。水がない涸れ沢の沢床を忠実に降りるので、岩場体験がない人は苦労する。飯塚さんが言う。「三点確保で降ります」。久しぶりに岩登りの原理原則を聞く。これは大原則であり、習慣化が経験値になる。爪先1cmでもホールドできれば安心だが、不安定な2点確保を通過するときの心細さは、もうこの歳では味わいたくないもんだ。丸山さんの奥さんに、反対向きになって岩に正対し、ふところを広くして足元を見るように指導する。そんなこんなで私の足も疲労困憊気味。今日はさすがに疲れを感じている。だが、今日の仲間は誰も弱音を吐かない。朝7時に出発して、すでに9時間が過ぎている。私としては反省しきりだが、そんな表情は微塵にも出せない。ポーカーフェイスで空威張り。突然、つむぎさんの声。「堰堤が見える」。
落石で傷跡が生々しい砂防堤をふたつ越えて、登山口にたどり着いた。皆さん、ご免なさい。お疲れさまでした。
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