週半ばから張り出した今冬最強の寒気団が日本上空に居座っているため、綿向山をあきらめて、もっと南の山へ行くことも考えたが、夕方には気圧の谷が近づくとの天気予報にいちるの望みを託して、登山口まで行ってみることにした。
赤堀さんと亀山SAで落ち合う約束だったが、行き過ぎてしまい、電話を入れて関で待ち合わせることにした。ここで合流し、日野町から北畑林道へ入ったが、凍てついて危険なので、引き返して西明寺へ回り込んだ。入口左の駐車場には、すでに5台の車が停めてあった。関西では人気の高い山なのだろう。
思いの外暖かく風もない。絶好の登山日和になりそうである。完璧な冬用重装備を詰め込んできたため、不要と思われるものを車に残し、歩き始めた。
無雪期であれば車で乗り入れることができるヒミズ谷出合には小屋があり、覗き込んだ赤堀さんが登山届けに記帳した。雪に覆われているとは言え、登路の暑さを考慮して防寒ベストを脱いでザックに収める。水無北尾根ルートは小屋の右を登る。私たちは小屋の前から橋を渡って表参道ルートに入った。
残念ながら昨夜は降雪がなく、新雪の樹氷はあきらめねばなるまい。欲をかくと罰が当たりそうだ。何と言っても雪山の日溜まりを授けてくれたのだから。登る人が多いと見え、ルートはしっかりと踏み固められている。ジグザグの表参道は勾配も緩く歩きやすい。メンバーの足取りも軽いので、徐々にペースを上げる。ひと組、二組と追い越させてもらい、三合目の小屋で水と少しの食料を補給して再び歩く。深い植林帯から一気に開放される。目の前に「若い力」と書かれた避難小屋がある。あたりの木々は伐採されたのか、明るい雪田が広がっている。西方が開けて麓の近江八幡方面が霞んでいる。
ふたたび樹林帯に入り、相変わらず山腹をジグザグに、規則正しく歩を刻んでいく。このあたりまで高度を上げると積雪は50cmを越えている。尾根筋に出ると行者堂が祀られている。ここが七合目。ブナやコナラの自然林に包まれている。この先で道は二手に分かれている。右は一般ルートで、山腹をトラバースして水無山稜線から綿向山へ向かう。左は冬用にトレースされた尾根筋の直登ルート。下山者の情報では、トラバースルートは一部凍結した危険な個所があるとのことなので、「君子危うきに近寄らず」。直登ルートをたどった。さすがに勾配はきつく、刻むステップが崩れると一気に息が切れてくる。雪山気分を存分に味わった頃、樹間のスカイラインが低くなり、大きなケルンが見えてきた。右に鳥居、左に社が祀られ、太陽が降り注ぐ展望の綿向山頂に着いた。
昔から信仰の山として山麓の人々から愛された山の頂には綿向神社の奥宮が建てられている。山頂正面、東方には雨乞岳が大きく横たわり、右に特長のある尖峰の鎌ガ岳から双耳峰の仙ヶ岳、台高の山々がうかがわれる。左は鈴鹿主稜線が霊仙山まで延びている。風もない穏やかな雪景色が広がっている。もったいない程のどかな冬。極上の雪山歩きは山頂の宴で更に盛り上がる。大した食事ではないが、定番のカップラーメンと握り飯は、なぜか全員、同様のメニュー。ガスを持ち上げた私と内田さんは、またなぜか二人ともガス切れ。サーモスにお湯を入れてきた赤堀さんが最も確実な判断。お湯のおすそ分けで、全員ホットな笑顔となり、酒あり、コーヒーありの宴は、山の話をサンドイッチに花が咲き、アッと言う間に一時間が過ぎた。
帰路は竜王ルートも提案されたが、山頂情報ではラッセルを強いられるとのこと。行きたそうな赤堀さんの提案は無視されたカタチで、往路を忠実に引き返すことになった。下山途中で右に見えた竜王山は真っ白なたたずまい。トレースはあるが複数の足跡ではない。膝上のラッセルは覚悟せねばなるまい。未練は禁物。
登山口まで下り、小屋でコーヒータイムの後、綿向山行にピリオドを打った。
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