蓼科滞在二日目は、Kさん夫妻の望みもあって蓼科山へ案内することにした。体力的な余力があれば、横岳まで縦走することも考えて、車を一台横岳ロープウエイターミナル駐車場にデポし、大河原峠に回り込んだ。昨年秋の低山徘徊オフでは、雨と強風の荒天で中止を決断した大河原峠だったが、今朝は一転、快晴の峠道にはハクサンフウロ、オヤマリンドウやマツムシソウが咲き乱れ、のどかな自然のたたずまいが広がっている。今日の行程は将軍平から蓼科山へ登り、天祥寺原経由で亀甲池、双子池まで歩き、時間的体力的余力があれば横岳へ縦走。無理なら双子山経由で大河原峠へ戻ることにする。
ヒュッテの前を通って大河原苑地の花々を愛でながらササ原を抜け樹林帯を歩く。このルートは蓼科山までの最短コースで標高差も500mを切る。よく踏まれている山道は歩きやすい。それほどきつい傾斜もなく、坦々と歩いていく。森林帯はササに覆われているが、白いカニコウモリがオサバグサやズダヤクシュに代わって咲いている。ササ藪から顔を出すラン科の植物を見つけた。後で調べたらエゾスズランだったが、スズランとは似つかない表情である。10株ほど確認できた。その他には花が少なく、ちょっと拍子抜け。勾配が緩やかになるとササ原が少なくなり、北八独特の苔が支配するようになり、キノコ類も多い。ギンリョウソウも咲いている。突然、縞枯れ現象の樹間に蓼科山が姿を現す。下り初めて再び森林帯にはいると、右から赤谷の道を合わせる。そのまま真っ直ぐゆるく下ると明るい将軍平に出た。
全員既にシャリバテ状況。実は早朝にホテルを出たため朝食を食べていない。蓼科高原、女神湖のどちらかにはコンビニがあるものと捜したが見当たらず、食料の調達ができなかった。あるのは昨日の残り物。私のサンドイッチとカップラーメン各一食分とブランディだけ。このルートは山小屋が多いので、小屋食頼りで山に入った。山屋にあるまじき行為である。ガイド役としては失格。そんな訳で、朝食は将軍平の蓼科山荘で食べることにした。ついでにカロリーメイトを調達し、いよいよ本番の登りにかかる。標高差200m弱を、直線的な急登は岩塊をよじり登ることになる。高度はグングンはかどるがKさんの鼻息は荒い。振り返ると展望が開け、浅間山の噴煙がうかがえる。すでに下ってくる人も多い。子供連れの親子が微笑ましい。左に回り込むと、岩にペンキで「山頂まであと5分」と書かれている。走らない限り、この5分はキツイ。山頂ヒュッテまで5分はかかる。ヒュッテから岩塊を渡り歩いて、大展望の蓼科山頂に立った。眼前に雄大な八ヶ岳と南アル
プスの山々が飛び込んでくる。
八ヶ岳をバックに記念写真を撮り、小休止の後、将軍平まで同じ道を下って、山荘横を右に折れ一気に樹林帯を天祥寺原まで下る。最後のガレ場を下るとササ原になり、天祥寺原が広がる。突き当たりを左に折れて大河原方面に向かう。ハナイカリやノアザミが多い。撮影に手間取る。Kさんが分岐で待っていた。直進すれば大河原峠。右に取れば亀甲池から双子池方面。直進したそうなKさんに右折を指示。まだまだ時間はたっぷりある。このルートは北八ヶ岳の雰囲気が充分味わえる。苔むしたシラビソや針葉樹林のたたずまいには幽玄の世界が広がる。亀甲池まではハナイカリが郡楽している。池は干涸らびて、本来の亀甲状態。ここから双子池までは苔に覆われた日本庭園さながらの静寂の道が続く。タケシマランが既に赤い実を連ねている。イチヤクソウも小さな白い花を穂先に開かせている。それほどの勾配はないが、大きく登ってゆるやかに下ると双子池に出る。山道は左を回り込んで、雄池と雌池の中間にあるヒュッテに導かれている。
ここまでで午後3時前。これでは横岳縦走は無理。そのことをみんなに告げ、ここで遅がけの昼食タイムとする。山小屋のオヤジが窓越しに声を掛ける。「どこから来た?」。「あっちから」と応えるか、「名古屋から」と応えるか迷ったが、冗談が通じないと昼飯にありつけないことを考え、正直に「蓼科山から」と応える。続けて「何か食べるものある?」と聞くと、「おいしいザル蕎麦がある」。続けてオヤジ曰く。「おいしいコーヒーもあるよ、インスタントだけど」。この正直さに騙されてみようと注文した。後の行程は双子山越えで大河原峠まで1時間強なので、ここで幽寂の森と池を眺めながら、のんびりすることにした。
ちなみにザル蕎麦は腰がなく、コーヒー同様インスタント風だったが大盛りに匹敵するボリュームだった。いくら信州とはいえ、山中で打ち立てを望む方が間違っている。その観点からすれば、オヤジの言葉に嘘はない。二人で一人前。妻と仲良く分け合って満腹。500円は誠に良心価格である。
この後、ヒュッテを右に樹林帯を登り、展望の双子山を経由して大河原峠に戻った。山上の展望と静寂の森林浴。フル一日、山にどっぷり浸かれた幸福感。時間を気にせず歩く山旅は、蓼科だからできる。こんな自然との接し方も、私流山歩きになってきた。この夜はホテルで食事を取らず、茅野でそれぞれの好みのメニューを選んで一日の労をねぎらった。ちなみにKさんは、うな重。Kさんの奥方は渓流御膳。愛するカミさんは初めてというソーストンカツ膳。私はうなぎの肝焼きとドテ煮に舞姫。暮れゆく八ヶ岳、蓼科に独り乾杯。飲兵衛がいないと何だか物足りない。あるぼぼさん、みずさん、もぐさん、カンパイ!! ひとり忘れました。ゴシュンさん、カンペイ!!
ハーヴェストの温泉に浸かり、あとは曝睡。
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