●全国の植生の状況 環境白書より
我が国の湿潤な気候・風土は、高山の岩石地等の一部の特殊な環境を除けば、全国にわたり、豊かな森林を育む。その意味で、森林がわが国の緑の主体をなすと言える。森林は木材生産のほか、国土保全、自然環境の保全等の多面的な機能を有しており、第2回(昭和54年度)・第3回(58〜62年度)調査における「植生調査」によれば、森林全体は国土の67.5%と世界的にみても高い割合を保っている。また、国土全体に占める森林の割合は、近年横ばいの状況が続いている。しかし、その内訳をみると、スギ、ヒノキ、カラマツなどの植林地(国土の24.7%)や薪炭材採取などの人為影響を受けて成立した二次林(国土の24.6%)が多くを占めており、自然林は国土の18.2%にとどまっている。わが国の緑の大きな特徴の一つとして、広範な気候帯や複雑な土地条件に応じ、多様なタイプの森林が生育することがあげられる。
気候帯毎に森林の状況をみると、寒冷で標高の高い高山帯や亜高山帯では、自然林や自然草原が多くの割合を占めるが、東北日本を中心に広がる冷温帯では、ブナ林などの落葉広葉樹林を主体とする自然林の割合は29.6%となり植林地や二次林の割合が多くなっている冷温帯での自然林の主体はブナ林などの落葉広葉樹林である。さらに、西南日本を中心に広がる暖温帯では森林全体の割合は、58.8%であるが、自然林の残存割合は2.3%と極めて低く、傾斜地、離島などの人間が利用しずらい場所や社寺林などにわずかに残存するに過ぎない。この自然林の主体はシイ、カシ、タブなどの照葉樹林である。また、南西諸島や小笠原諸島は亜熱帯域となり、亜熱帯性のヤブツバキクラス林やマングローブ林などがみられるが、この地域では自然林の割合が47.1%と高い一方、森林全体の割合は50.1%と低いことが特徴である。
わが国の多様な森林は、また多種多様な動物相を育む。生息する動物相は、各々の森林のタイプや規模により異なっており、多様な動物相の安定的な維持の観点からも、それらが生息環境として必要とする様々なタイプの森林の確保が必要である。その中で、国土の24.6%と多くの割合を占めている二次林は、人間活動の影響を受けて成立した森林であるが、核となる自然林とともに良好な動物生息環境を形成するものや、それ自体に特有の動植物種を育むものもあるなど生物種の多様性を維持する上で、様々なタイプの自然林とともにその適切な保全が必要と言えよう。
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