07:10。山頂の朝は春霞。
ここは木曽。中央アルプスの南に位置する夏焼山。深い谷合の妻籠宿はまだ眠っているように静かである。谷をへだてて南木曽岳が大きな山容を見せている。右に目を移せば、南ア南部の稜線上に奥石岳、摺古木山のピークが霞の中に何とか認められる。妻と二人ベンチに腰掛け、贅沢な自然の恵みのなかで朝げの時間。今回は大平峠に車を停め、最短30分コースで頂上に立った。
ここは豊かな自然林に包まれ、標高の高さで今が新緑の時期。苔むしたミズナラ、サワラの大きな古木も多く、春の野花も半月ほど遅咲きのようである。ミツバツツジの花は落ち、代わりにレンゲツツジが咲き始めている。山頂から北へ、奥石岳方面に展望コースが作られている。新緑のトンネルを緩やかに下っていく。マイヅルソウが多く、ハートの若葉から白い花火をはじかせている。ユキザサも多いが、まだまだ蕾は青く固い。笹藪の中に白く光るギンリョウソウを見つけたが、よくよく見ると実におおい。日陰を好む性質と思っていたが、ここでは登山道沿いにいろんな姿で楽しませてくれる。エンレイソウも咲いている。撮ることもなくやり過ごすと、シロバナが目に飛び込んできた。シロバナエンレイソウは信州に多いが、木曽で見かけるのは初めてである。真っ白な若い花より、妖艶なピンクの色気が漂う中年の魅力に取り憑かれていたら、妻が一言。「その花は年寄りでしょ」。同類への同情なんです・・・。
下りきった鞍部は奥石沢源流にあたり、巨大なヒノキに包まれて暗い。稜線から別れて右に折れると木橋がある。花期を過ぎたミズバショウの大きな葉っぱが湿地を埋めている。清冽な水をくねらせる沢沿いの両岸に散策道が整備されている。ここを下っていくと県民の森広場に出た。管理小屋には、「熊よけの鈴、貸します」と書いてある。ただし、誰もいず閉ざされている。ウマノアシガタが点在する明るい草原の中を歩き、馬の背コースにはいる。ここからは登り返しになる。突然、前方のブッシュの中でガサゴソ。口笛を吹き、靴音を高めて威嚇。動くものに声をかける。「熊かあ!」。ニョキッ、と頭を出したのは、山菜採りのおじさんだった。手には収穫のゼンマイがいっぱい。妻が早速、仲間入りの体勢。「ダメ」と手振りで制止して、先を急ぐことにする。実は妻、すでにコシアブラとタラの芽をザックにいっぱい収穫済み。咲き始めたレンゲツツジの中をたどる。急な登路は、馬の背まで上がると緩やかな尾根筋になり、大平峠への分岐点に戻る。ここからは往路を下ることになり、10時前に車に戻った。
明日の日曜は所用があるため、今日は三本立てを企てていた。この後、大平宿経由で三州街道に入り、東山道の網掛山と茶臼山あてび平を歩く予定だった。大平宿の村外れの林内にあるベニバナイチヤクソウを再び訪ね、林道沿いのタラの芽を失敬してから、153経由で東山道網掛峠へ向かった。峠近くの沢筋で昼食の店開きをしていたら携帯が鳴った。
「緊急!」。あえなく中止で、慌ただしく園原ICから名古屋に帰った。
参考
2004.05.20東濃、恵那郡串原村にて
朝霧の谷間、ヤマボウシ、シャクナゲ |