新雪紅葉の涸沢・槍沢 デジカメ山野草トレッキング
新雪紅葉の涸沢・槍沢(北アルプス上高地)

 
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涸沢の朝

左/横尾谷の朝 中/ナナカマド紅葉と前穂高岳 右/パノラマルートから見る涸沢


槍沢
2006年10月8日 雨後上部吹雪
上高地〜槍沢2250m地点撤退〜横尾

上高地から終始雨の行軍が続く。普段のトレーニング不足から、槍沢ロッジでバンデリンを両足に擦り込む。防寒衣料に着替えて出発。上の写真は槍沢ロッジから水俣乗越付近で撮影したもの。この後、ミゾレから吹雪に変わる。予備の手袋は不要と考えたのが間違い。濡れた手の感覚が鈍い。疲労度も局限か。2250m地点で昼を過ぎていた。この調子では確実に南岳山荘は無理。やむなく敗退する。寒さのために胃が機能しない。食事も受け付けない。食べると吐くの連続で、横尾までたどり着いた。これ以上は歩けないので横尾山荘に泊まることにした。


涸沢周回 横尾谷からパノラマルート
2006年10月9日 ガスのち快晴
横尾山荘〜横尾谷〜涸沢ヒュッテ〜パノラマ屏風のコル〜徳沢〜上高地

左から屏風岩・横尾尾根・横尾上部の峰・奥穂高岳
まだ本調子ではないが、行けるところまでと5時過ぎに山荘を後にする。ヘッドライトを頼りに横尾谷を歩く。暗闇の中に屏風岩が黒い影を見せる。まだまだガスの中。本谷橋を過ぎて横尾谷右岸を歩いていると、ガスが消え始め、横尾尾根が顔を出す。さらに歩を進めると、谷の奥に穂高連峰が白く輝いている。


右から、前穂高岳吊尾根とナナカマド・奥穂高岳・涸沢テント村と北穂高岳・屏風の頭
8時前、あがきながら涸沢ヒュッテに着いた。昨日は吹雪だったというのに泊まり客は多く、朝のテラスは賑わっている。ここで一時間、撮影のために時間を費やした。岩にへばりつく雪は凍っていて滑りやすい。ナナカマドは寒さに傷んでいるものが多く、来週までは持たないだろう。チャンスはいつも一週間だけのようである。


左から槍穂連峰と秋空・ナナカマドの槍ヶ岳・前穂高岳と明神岳・徳沢の秋
昨日からロクな食事をしていないので、ウイダーを飲んで引き返すことにする。パノラマルートは前穂の北斜面をトラバースするため、陽が当たらず凍結している。アイゼンを装着するほどでもないが注意したい。横尾谷の渋滞を避けるためにこの道を選んだが、懸垂岩場のロープ個所で渋滞。約30分待たされ、それからは断続的に渋滞。涸沢では見られない槍ヶ岳が望めるため、最近は人気になっている。疲れは限度。屏風のコルから惰性で下った。


山名 槍沢・涸沢
標高 2430m 最高到達地点
所在地 長野県松本市
登山日 2006年10月8-9日
天気 8日 雨・上部吹雪
9日 ガス後快晴
メンバー 単独
コースタイム
8日 槍沢
05:10 上高地バスターミナル
05:50 明神
06:30 徳沢
07:30 横尾・休憩/07:45
09:10 槍沢ロッジ/10:00
11:40 水俣乗越分岐
12:30 2250m地点で撤退
15:40 横尾山荘着(泊)
9日 涸沢
05:05 横尾山荘
06:05 本谷橋
07:50 涸沢ヒュッテ/09:00
10:45 屏風のコル
12:50 奥又白谷・昼食/13:15
13:50 徳沢
15:30 上高地バスターミナル

ナイショのお話ですが、帰りの上高地バスセンターの沢渡間シャトルバスの利用客は延々と長蛇の列です。バスは一人1,000円。タクシーは一台3,900円。バスで一時間待たされるなら、10分待ちのタクシー利用が断然ベター。相乗り割り勘なら四人乗車で一人975円です。皆さん、待ちながら聞き会っています。
台風と低気圧の位置関係は、ちょっと気象に通じていればその危険性は分かるはず。ましてや大陸に寒気があれば、一時的な冬型の気圧配置ができあがることも想像できる。土曜に入ることはあきらめた。日曜の予報は午後から回復予想だったが、午前0時の予報では回復が遅れているとのこと。荒れる山が治まるときの情景と、新雪と紅葉のシャッターチャンスを期待して0時半に自宅を出た。

山行予定/【8日】上高地→槍沢ロッジ→天狗原→南岳山荘。【9日】南岳山荘→キレット→北穂高岳→涸沢→屏風のコル→徳沢→上高地

出かける前にアルピコタクシーに電話。今年から沢渡・上高地間はどのタクシーも3,900円定額にしたとのこと。バスが1,000円なので、4人で乗ればタクシーのほうが安くなる。なるほど。5時に釜トンネルのゲートが開くようになったので、4時半に沢渡駐車場にタクシーを配車するとのこと。

途中、コンビニに寄って沢渡市営第1駐車場に着いたのが4時前。満車の立て札。しかたなく手前の民間梓第1駐車場に入れる。料金は同じ500円/日。風雨が強い。先が思いやられるが、準備して車内で真澄を飲みながらタクシーを待つ。4時半きっかしにタクシーが入ってきた。一番タクシーに合図して乗り込む。相乗りを待つより早く出かけたいので出発を促す。上高地バスターミナルに丁度5時到着。ヘッドライトを頼りに傘をさして歩き始める。

急く心を抑えても足は勝手に速くなる。降り続いた雨でいつもの道はぬかるんでいるが、構わずバシャバシャ歩を進める。明神でトイレに寄る頃には明るくなったが、雨足は相変わらず。昨年泊まった徳沢園に寄って写真を撮り、また歩く。横尾では、すでに山へ向かう人たちで賑わっている。ここで軽く朝食をとり、槍沢へ向けて再び黙々と歩く。一ノ俣、二ノ俣を渡ると道は徐々に勾配がきつくなる。急いだせいか、ふくらはぎが張ってきた。このところ怠け癖がついたヤワな身体が悲鳴をあげている。槍沢左岸の高台に槍沢ロッジがある。9時を回った頃に到着。雨も小降りになったので、対岸の紅葉を写真に収め体を休める。雨がしのげる別棟軒下のベンチに陣取ってズボン、靴下、アンダータイツを脱ぎ、丹念にバンデリンを擦り込む。昨年の屏風の頭では足が攣って難渋した。攣る前のお手入れをしたら、何とか元気を取り戻したようである。

槍沢の紅葉を写真に収めながら左岸沿いに登っていく。赤沢岩小屋にテントが張られ、のんびりする人たち。「上は吹雪いていますよ」とのこと。対岸横尾尾根の紅葉上部、岩壁は雪に覆われている。標高2200m以上は雪の世界か。ババ平を抜けて道は槍沢左岸を忠実にたどっている。天気は快方に向かうどころか、次第に風を強く感じる。断続的な雨がミゾレに変わってきた。水俣乗越の大曲りで一息入れる。若い健脚がうらやましいペースで駆けるように通り過ぎていく。若かりし頃、5月の残雪期にベースの涸沢から横尾を回り込んで、この水俣乗越経由で槍をアタックし、槍沢を尻セードで滑降、日帰りした馬力がウソのように思い起こされる。我が身に言い聞かせてふたたび登る。

ミゾレが雪になり向かい風が厳しくなる。手袋は皮を持参したが替えまでは用意しなかった。薄手のため濡れた指先の感覚がにぶい。すでに回りは吹雪の白い世界。時計は12時を回っている。天狗原の紅葉と槍ヶ岳の勇姿を写真に撮りたかったが、今日は無理のようだ。ましてや南岳山荘までは、この状態が続けば4時間は必要だろう。吹雪でルートに戸惑えば日が暮れる。撤退しても槍沢ロッジ泊まりなら、もう少し頑張る気もあるが、翌日の行動が中途半端になる。いさぎよくあきらめて、早めに下れば翌日の涸沢が期待できる。明日に賭けよう。撤退、敗退である。急に身体が重くなり、吐き気が断続的に襲う。

困った持病はお腹を冷やすと慢性胃炎が目を覚ますこと。これがこじれると決まって胃潰瘍になる。気を遣ったはずの胃がストライキに入った。吐こうとしても何も出ない。ろくな朝食を食べていない。昼はウイダー一本だけだから出るのは唾だけ。戦中生まれの粗食に耐えた身体だが、歳には勝てないようだ。10時間半の歩程で横尾山荘にたどり着いたが、夕食は喉を通らなかった。好きなビールも酒も呑む気にならず、布団一枚に二人のスペースで早々と眠りに就いた。

3時に起きて外へ出た。見えるはずの星はなくガスが谷を支配している。ひょっとして峰は雲上のパラダイスか。気分も悪くない。4時半の朝食はほとんど残したが、涸沢へ向かうことにした。暗い夜道も本谷橋まで来るとさすがに明るい。ガスのベールは厚いが、その上では朝陽が輝いている時間だろう。高度を増す毎にガスは薄れ、横尾尾根が見え隠れする。前方の視界が開けて青空と白い峰が飛び込んできた。単純に喜ぶ。やったぜ。

まずは涸沢ヒュッテに入り、テラスからぐるり穂高連峰を見渡す。ご機嫌の雪化粧に満足。ナナカマド地帯には前穂と吊り尾根が影を落としているが、待っていれば陽が当たる。ここで1時間の撮影タイムをとり、紅葉と新雪の滅多に味わえない光景を写真に収めた。ナナカマドは寒さと雪ですでに鮮やかさを失いかけている。逆光で陽を透過させたほうが当然映えるが午前中は穂高をバックにすることはできない。白い峰もナナカマドも順光で撮ると、白は飛び、ナナカマドは黒ずむ。今回は前穂北斜面の影になった雪化粧と半逆光のナナカマドで紅葉を映えさせてみた。今日の午後まで待って撮れる人は最高だろう。

後のことを考え、早めに涸沢に別れを告げ、パノラマコースに入った。前穂針峰群の北斜面をトラバースして屏風のコルを越え、奥又白沢を下って徳沢に出る、涸沢のもうひとつのルートだが、登りはキツイので下山コースとして一般に利用されている。シーズンの横尾谷は恒常的に渋滞するので、僕はこちらのコースを好んで使う。涸沢の俯瞰も見事だが、槍ヶ岳が望めるのもこのルートのいいところ。ちょっと危なっかしい岩場のトラバースもあるが慎重に渡れば何ら問題はない。さすがにハイシーズンで、まさかの渋滞にびっくりしたが、旅は道連れ、お話相手との会話で時間を潰しながら屏風のコルを越え、激下りでびっしょり汗をかきながら奥又白の沢筋で大休止。

お湯を沸かしてカップうどんを食べていたら、チョコンと隣の岩に越をかけた若き女性。「お疲れさま」と声をかけた。笑顔の美しい面長の美人である。余ったお湯でコーヒーを煎れる。彼女は僕をチラチラ見ている。「お連れさんはいないの?」。「先に行って見つからないのです」。涸沢を発ってから追いつけないとのこと。かれこれ3時間。彼女は手ぶらで何も持っていない。実は喉がカラカラとのこと。さっそく涸沢で補給した冷たい湧き水をティーカップに注いでご馳走した。おいしそうに飲むこと。「これから山を歩くときは、必ず非常食と水だけは自分で持ち歩きなさい」と、余分なひとことを言ってしまったが、こういう人たちまで訪れる涸沢になってしまったようである。アルピニストの聖地ではなくなったと言うことを改めて認識した。


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